心を楽にするために振り返る子育て

18.  苦しさの中で人に自然に生じる行動や症状は、心理療法と同じところがある

読むカウンセリング【No.0017】 2009/02/22

苦しさの中で人に自然に生じる行動や症状は、心理療法と同じところがある

1.『ひきこもり』について 

今回のメルマガのテーマを、まず、『ひきこもり』を例に説明します。

『ひきこもり』という言葉を耳にすると、大抵の人は「良くないこと」という印象を持っているだろうと思います。

しかし、「ひきこもり」という状態を客観的に考えてみると、実は、心理療法である森田療法と目指す方向性は似ていると言えるところがあると考えています。

【ご参考:森田療法 – Wikipedia より抜粋】
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%AE%E7%94%B0%E7%99%82%E6%B3%95

* 第一期 絶対臥褥(がじょく)期
o 患者を個室に隔離し、食事・排泄時以外の活動を制限して布団で寝ているよ
   うにさせる。
* 第二期 軽作業期
o 臥褥時間を減らし、外界に触れさせ、軽作業をさせたりする。
* 第三期 重作業期
o 睡眠時間以外はほとんど何かの活動をしているという生活にし、肉体的な重
   作業を行う。
* 第四期 社会生活準備期
o 日常生活に戻れるよう、社会生活訓練を行う。

森田療法は、心理療法として精錬されたものであり、それが「ひきこもり」と全く同じと言っている訳ではありません。大雑把な方向性が同じだということです。

例えば、旅の行き先の候補地が、京都・奈良・沖縄・北海道・・・などと沢山ある中で、決めた目的地が「京都に行こう」というように同じだということです。

方向性は同じであるにも関わらず、これらには大きな相違点が、2つあります。

その一つは、

・心理療法は、自他共に「心の回復に有効である」と認めている(期待している)

・「ひきこもり」は、自他共に「心の回復に有効である」と認識するどころか、心
 の問題として認識している

というところです。この違いによって、せっかくひきこもって「外界からの刺激を遮断し心を穏やかな状態に戻そうとする」森田療法の第一期を実現しようとしても、それが出来ないという状態に陥った結果、心を穏やかにする一歩前の段階で、長期に渡り停滞しなければならなくなってしまうと考えることも出来るのです。

そして、もう一つが

  • 心理療法には、心をサポートしてくれる人がいる
  • 「ひきこもり」には、心をサポートしてくれる人がいない

ということです。

2.心理療法はサポーターが存在して初めて成立する

行動療法や認知療法、認知行動療法で行なわれることは、これも大雑把な話ですが、それだけでは、神経症・恐怖症やうつになる人の思考パターンと同じといえるところがあります。

  • 目標を設定してそれができるようになろうと努力する
  • 考え方を変えようとする
  • 考え方が変るような体験を積み重ねようとする

これらの努力は、心に苦しみを抱える人は、これまでもずっと続けてきたことだと思います。

そんな努力の結果、心の苦しみから脱出できた人も多いと思います。

しかし、心の苦しみを解決できずにいる人も多いのです。

そんな苦しみから脱出できない人たちの多くを、これらの心理療法は救い続けています。

やっていることは同じなのに、片方は心の苦しみを解決し、片方は、いつまでも心の苦しみを解決できないという違いが生じるのです。

どうして、このような違いが生じるのでしょう?

それは、「ひきこもり」のところで説明したのと同じように、「心をサポートしくれる人がいるかいないか」の違いだけなのです。

※以降、「心をサポートしてくれる人」のことを『サポーター』と呼んでみます

このことを踏まえながら過去を振り返ったとき、心に苦しみを抱えてきた人の多くは、「様々なことに、誰にサポートしてもらうことなく、一人立ち向かってきた」ということに気付くだろうと思います。

この「サポーターなしで一人立ち向かう」ということは、心に大きな負担をかけることになるのです。

他の人に気持ちを支えてもらったとしても、何かをするのは自分自身です。

自分がやるために、他の人に心を支えてもらったとしても、それは、恥ずかしいことでも何でもないのです。

心に苦しみを抱える人の多くは、ここを勘違いして、「心を支えてもらってはいけない」という無意識に支配された行動ばかりをとろうとしてしまっているのです。

しかし、そう思っていたとしても、「これまでの人生の中でサポーターを諦めざるを得なかった事情があった」ということだけなので、自分を責める必要はありません。

逆に、「サポーターなしで、これまで良く頑張ってきたな!」と自分自身を褒めてあげて下さい。

3.サポーターとは

サポーターとは、自分の代わりに何かをやってくれる人ではありません。

自分の心の苦しさを解決しようとしてくれる人でもありません。

その時々の自分の気持ちのままにいても、次のような声掛けをしながら、ただ静かに側に寄り添ってくれる人です。


【例】

  • 嬉しい時に、「良かったね」と言ってくれる
  • つらい時に、「つらいんだね」と言ってくれる
  • 頑張った時に、「よく頑張ったね」と言ってくれる
  • 頑張ったのに失敗したときは、「頑張ったのに、残念だったね」と言ってくれる
  • 迷ってしまった時に、「そうだね、迷っちゃうよね」と言ってくれる
  • やりたくない時、「そうだよね、やりたくないんだね・・・」と言ってくれる
  • やりたくても最後の勇気が出ないとき、「やろうと思っても、勇気が要るよね」
  • やろうと決めたとき、「やてみるといいよ」と応援してくれる
  • やらないと決めたとき、「やらないと決めたんだね」と受けとめてくれる

などなど・・・


何かをしたり、何かをしなかったりするのは、自分です。

しかし、前述のような声掛けをしてくれるサポーターがいると、安心や勇気につながるのです。

そして、実際に、そのように声掛けしてもらえれば、大きな安心や勇気を得ることができるのです。


【補足】

『心の旅』の最終的な目的地は、

■そんな自分のサポーターに、自分自身がなる

というところにあります。

自分がサポータになることが出来れば、決して裏切られることはありません。

これほど、心強いことはないのです。


4.人の自然な行動の意味

苦悩に頭をかきむしったり、モヤモヤした感覚の中ため息をついたりするといった、自然に起こる行動は、大切な意味のある行為です。

これまでは、あまり意識することは無かったかもしれませんが、頭をかきむしれば、頭の不快感は薄れます。

ため息をつけば、胸のモヤモヤした感覚は薄れます。

これを、催眠療法の中で活用すると、自分に生じた嫌な感覚がすっかりとれて、スッキリした気持ちになることも多く起こります。

ですから、自然にとってしまう行動は、大抵、意味や目的があることなのだと考えています。

そして、心が苦しいときに起こる自然な行動の目的は、『心の苦しさを解消すること』なのです。

例えば、依存症は、「依存行動が止められない」のではなく、「心の苦しさを解決しようと依存行動をしている」ということです。

その行動の意味や目的を認めないから、そして、それを一人孤独にやろうとするから、心理療法的な効果を得ることが出来ないのだろうと考えています。

逆に、それらの目的を「心の苦しさを解決しようとすること」と理解し、更に、サポーターをつけさえすれば、それらの行動や症状は、全て心理療法と何ら変わりのない構造にすることができるということです。

例えば、

  • ギャンブル依存症にサポーターをつければ、意識の方向性転換療法
  • 過食嘔吐にサポーターをつければ苦しさの原因置換療法
  • 恐怖症にサポーターをつければ、危機的刺激回避療法
  • 自傷行為にサポーターをつければ、他の痛みによる感覚相殺療法

などというように、その位置づけを変えることができるのです。


【補足】

この辺のことは、次のサイトで、もう少し詳しく説明していますので、お時間のある時にでものぞいてみて下さい。

■心の苦しさを解決する方法
http://www.pureheart-counseling.com/solutions


繰り返しますが、この時に話されるべきテーマは、行動や症状ではなく、行動や症状によって解決しようとしている『心の苦しさ』なのです。

逆に、薬物療法でも、サポータなしにやれば、なかなか効果が得られないままに薬物依存症という状態に陥ってしまうことになるのだろうと思うのです。

5.症状や状態を、『自己解決療法』の『~~メソッド』とでも呼んでみましょう

自分の精神的な症状や状態を意識したときには、『自己解決療法』の『~~メソッド』を自分は採用していると考えると、それを意味のある大切な行動として自分が認め易くなります。

また、自分の周りにいる「心に苦しさを抱えている人」の行動を理解しようとするときも同じです。

例えば、「ひきこもり」の場合は、この人は、『自己解決療法』の『ひきこもりメソッド』を採用して、心の苦しさを解決しようとしていると認識してみて下さい。

そうすると、これまで「ひきこもりを解決しないといけない」と思い込んでいた人の意識は、「心の苦しさを解決しないといけない」というものに変り、これまでのように「変れ変れ!」と相手を責めたてることもなくなるのではないかと思います。

そう思うだけで、立派なサポーターになっているので、心理療法的な構造になっているのです。

最も効果的な『自己解決療法』は『泣くメソッド』や『気持ちを話すメソッド』です。

サポーターに側にいてもらって

  • つらい気持ちを話すこと
  • 泣きたいときには泣くこと

なのです。

6.まず、サポーターを見つけることが心理療法化への第一歩

自分の周りに、そんなサポーターになってくれる人が、身近にいることに気付いていないだけかもしれません。

或いは、実際に、サポーターになってくれる人がいないから、心理療法的な効果が得られずに、その行為を続けざるを得ない状況に置かれているのかもしれません。

もう一度、辺りを見回してみて下さい。

  • 本当に、サポーターになってくれそうな人はいませんか?

もし、サポーターになってくれそうな人がいないのならば、心理カウンセラーを当面のサポーターとして採用してみるのも良いと思います。

そして、しばらくカウンセリングや心理療法を続けて、その中での心理カウンセラーや心理療法家によるサポーターとしての関わりを繰り返し体験するうちに、日常の場面の中の今まで意識が向かなかったところに、サポーターとなりうる人が存在することに気付いたり、或いは、サポーターになろうとしてくれている人が既に存在していることに気付いたりしていけるようになります。

それ以降は、そんなサポーターに支えられながら、日常の生活の中で心理療法的な効果を得続けることができるようになれるのです。

これは、心が苦しいときに限った話ではありません。日常のちょっとした自分の気持ちを、その都度誰かにサポートしてもらうようにすると、無理や我慢を蓄積させて心身を疲労させてしまうことを、回避することにつながるのです。

俗に『心が強い』といわれている人は、

  • 何かあればサポーターに心を支えてもらえば良いということを知っている
  • そんなサポーターを沢山持っている
  • そんなサポーターをこまめに活用している

だけのことなのです。

7.一人で情報や知識に向き合ってもなかなか解決しない

色々な心理関係の本をひとり孤独に読みあさっても、上手く心の苦しさを解決できないことは多いと思います。

その理由も、これまでの説明で、何となくご理解頂けたのではないかと思います。

一人で本を読んでいるうちは、「サポーターがいない」という状況は、以前と同様に変らず続いているからなのです。

仮に、本を読むことで心の苦しさの解決を目指すときは、前述した最終目標である

■自分のサポーターに、自分自身がなる

を念頭においておくことが大切です。

しかし、いきなりそれを目指すのは、容易な道ではありません。

悟りを目指す修行をしているわけではないのですから、心に苦しみを抱え込まない人がしているのと同じように、自分にもサポーターをつけることが、近道になると思います。

そして、多くのサポーターに支えられながら、「自分はみんなに支えられている」ということが実感できるようになったとき、それは、自分が自分自身のサポーターになれたときであり、そして、他の人たちのサポーターになれたときでもあるのだろうと思います。

メルマガ編集後記【No.0017】

今回のメルマガ『苦しさの中で人に自然に生じる行動や症状は、心理療法と同じところがある』は、タイトルも長いですが、本文もかなり長くなってしまいました。

最後まで、お読み頂くのは、少し大変だったかもしれませんね(^_^;)

編集後記として、もう少し簡単に説明を試みたいと思います。

※バックナンバー 18.  苦しさの中で人に自然に生じる行動や症状は、心理療法と同じところがある

【設問】

あなたに、2、3才の子供が居ることを想像してみて下さい。

子供を連れて、家のすぐ近くの公園に遊びに来ました。

しばらく走り回っていた子供は、こけて、ヒザを擦りむいて、大泣きしながらあなたのところへ戻ってきました。

結構な出血量で、傷口には、砂が入り込んでいます。

さて、あなたは、どのように対応しますか?

【選択肢】

  1. 子供の背中でもさすりながら、子供が落ち着くまで「チチンプイプイ、痛いの痛いの飛んで行けー!」と言っていてあげる。
  2. 泣いている子供の手を引いて家につれて帰り、傷口を洗い、消毒したり薬を塗ったり包帯を巻いたりして、手当をする。

答えは、両方とも必要だと考えています。

「1.」は心に効く薬。 「2.」は怪我に効く薬。

これと同じように、大人になったあとでも、人生の中では、心に効く薬も必要だということです。 そして、何が薬になるのかというと、メルマガの中で表現したサポーターの言葉なのです。

・嬉しい時に、「良かったね」と言ってくれる
・つらい時に、「つらいんだね」と言ってくれる
・頑張った時に、「よく頑張ったね」と言ってくれる
・頑張ったのに失敗したときは、「頑張ったのに、残念だったね」と言ってくれる
・迷ってしまった時に、「そうだね、迷っちゃうよね」と言ってくれる
・やりたくない時、「そうだよね、やりたくないんだね・・・」と言ってくれる
・やりたくても最後の勇気が出ないとき、「やろうと思っても、勇気が要るよね」
・やろうと決めたとき、「やてみるといいよ」と応援してくれる
・やらないと決めたとき、「やらないと決めたんだね」と受けとめてくれる

などなど・・・

あなたは、最近、誰かに『チチンプイプイ』言ってもらいましたか?

ちなみに、本当の気持ちとは・・・

『チチンプイプイ』を言ってもらうことを諦めているうちは、『本当の気持ち』には、なかなかたどり着けません。

逆に、「今の自分は、何に対して、それを言ってもらいたいと思っているのだろう?」と考えてみると、本当の気持ちに気付きやすくなると思います。

そして、それに対して、『チチンプイプイ』を言ってもらえれば、心は穏やかになったり、満たされたりするのです。

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